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IMG_6837長野県東御市。
千曲川流域に広がるこの町では、数年前からワイン特区認定制度を採り入れている。
日本においてワイン醸造は許認可事業であり、お酒を勝手に作ると密造酒になってしまう。
本来ならば、年間何千トンかの量を安定的に作ることのできる大きな事業者にしか許認可権を発行してきていなかったが、この市ではそのハードルを下げ、個人事業主でもワイナリーに参入できるようにと、ワイン特区制度を開始した。
現在ではすでに3つのワイナリーが開業し、その中のひとつが小山英明さんのワイナリー、リュード・ヴァンだ。リュード・ヴァンとはワイン通りという意味で、この町にそんな風景を作り出すことが彼の夢でもある。
もともとこの地は養蚕地帯で、生糸の原材料となるお蚕さんを飼っていた農家が多かった。しかし、中国からの安い生糸の大量輸入により養蚕業は廃れ、その後に林檎の木やぶどうの木を植えた農家が多かった。しかし、林檎も消毒作業が大変で世代継承がうまくいかず畑も耕作放棄地となる。小山さんは何とたった一人でこの耕作放棄地の開墾に取り組み、今では相当量のワイン用ぶどう畑を得るに至った。まだ7年目のこのワイナリーだが、もともと小山さんはこの地とはほとんど縁がない、いわゆるIターン就農者である。

そんな話しを東京での仕事上の先輩クリエイターに話しをしたら、ぜひ行ってみたいということになり、先週末、シトローエンDS4の試乗ドライブを兼ねて出かけた。ご一緒したのは、カメラマンの小川義文さんとアートディレクターの笹川寿一さん。1990年台、マツダのスポーツカー、ユーノスの販売チャンネルであるユーノスのPR誌の編集をこの3人で行なっていた。そして小川さんは当時から自動車雑誌NAVIのメインカメラマンであった。そもそも小山さんもクルマが大好きで、今でもワイナリーのアイコンになっているブルーのトゥインゴに長年乗り、今ではメガーヌスポルトのマニュアル車に乗る。若い頃は雑誌NAVIの愛読者でもあり、小川さんの写真はよく観ていたという。
クルマ雑誌の読者だった若者がワイナリーを立ち上げ、そこを写真家が訪ねる旅。そんな一日だった。

フランスのぶどう畑をずいぶん見てきているけど。
小川さんは、仕事でよくヨーロッパへ行く。もちろん撮影に行くわけだが、撮影の場所探しも苦労して素敵な場所を探しだすのもカメラマンの仕事になる。
「雑誌NAVIの編集長の鈴木さんと、よくヨーロッパのワイナリーに行きましたよ。ワイナリーに行くとそこでランチをいただくことができるので、わざわざルノーとか撮影者を駆ってね。きれいなぶどう畑を見ながらのランチタイムは今でもよく覚えているけど、そんな風景を思い起こさせるね、ここは。」
今では上信越自動車道ができて、東京の練馬からでも2時間のドライブである。まさか、日本で、しかも東京から2時間のドライブでこんな素敵なワイナリーがあるとは知らなかった小川さん。しばしその風景をフランスブルゴーニュの風景とダブらせているようだった。

5年後、10年後のここの風景をイメージしていると。
小山さんは、ひとりでこの事業を始めるにあたって、ユニークな手法を取り入れてきた。個人株主制度だ。一人100万円、一人一口。この原則で最初の事業資金を製作し、ワイン友の会会員なども募集し、苗植えや草取り、収穫作業には会員メンバーがボランティアで参加するという手法だ。今ではクラウドファウンディングなどの手法もあるが、当時はまだまだそのような方法もなく、一人で情報発信を行いながら、コツコツと資金を調達し、ここまで来ている。
苗木も植えてから収穫できるまで数年はかかる。フランスのワインでも樹齢何十年の木が、という話もよく聞くように、時間が必要である。「もちろん僕だけの時間では達成できないので、次世代、孫世代に残せる風景を作るのが自分の仕事だと思っています。」という風に、すでに50年先のことまで視野にいれながら大切にぶどうの木を育てている。

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2013年6月
Photo and text:Hideo Miyazaki