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吉川正敏さん。
元・日産自動車勤務。長年スカイラインGT-Rの開発に携わってきたクルマ好きが、本格的にカメラの世界に入るきっかけとなったのが、花の写真撮影。写真家・小川義文を師匠と仰ぎ、第1回目の花の写真FBグループ展から毎回参加している。

論理的思考の中にも感性が。
私は長い間、日産自動車でスカイライン、GT-R、Zなどのスポーツカーやスポーツセダンの開発を担当してきました。
クルマの開発というのは、論理的思考の世界で、いろいろな性能や機能を開発するために、できるだけ定量的なデータで目標が設定されていて、ボルト1本のサイズまで理屈が通っています。しかし、すべてのことがデータで説明できるわけではありません。実際、計測データの数値が優れていても、人間の感性でよいと感じないこともあるのです。そういう時は、評価ドライバーとエンジニアが、自分たちの感性でよいと感じる現象や性能を分析し直す必要があります。でも数値で説明できない現象を、お互いの感性で理解を一致させるというのは、そう簡単ではありません。まず価値観を揃えることから始めないといけないこともあります。評価ドライバーが見つけた「よいクルマ」と感じる現象を、開発メンバーが共有化して、知恵を絞りあって、具体的にブレークダウンすることで、さらに優れたクルマが開発されていくのです。
私は論理的思考の世界で、人間の感性の素晴らしさを感じながらクルマ作りの仕事ができたことが、とても幸せな時間だったと思っています。

自分自身が写し込まれる写真。
カメラも機械装置でありながら、自分の感性との接点となる道具として、ちょっとクルマに似ています。私にとっては、シャッターボタンがアクセルペダルで、レンズのフォーカスリングがステアリングホイールという感覚でしょうか。クルマを自分の思い通りに操る爽快な気分を実感すると、自分の感性とクルマが一体になった気分になります。
私はまだ、さほどカメラを自分の思い通りに使いこなせていないのですが、それでも、シャッターボタンを押した瞬間に、自分の感性が求めていた一瞬をとらえた感動が何回かあります。それは、写真の出来のよさ悪さとは別に、個人的な思いへの達成感を感じる瞬間です。そうして撮った写真には、なぜそうなるのか分からないのですが、何かしらその瞬間の自分の感性が、写し込まれているように感じます。朝陽に当たる花を見た時の清々しい気持ちや、濃い色の薔薇の妖艶な魅力に惹かれている気持ち、好きなクルマが颯爽と走る姿を見たときの気持ち、その時その時の自分の気持ちが写し込まれることが分かると、写真を撮ることがグッと面白くなってきたのです。

自分自身を見つめ直して見よう。
花の写真展も3年目で、今年は代官山ヒルサイドテラスという夢のような大舞台。作品提出に向けて次第にプレッシャーが高まる中、夢中になって写真を撮っていることが、自分自身の活性化になっています。
でも、知らなかったことが一つずつ分かるたびに、技術的なことよりも、見る目や感性が大事だと改めて思ってしまいます。感性は磨くというよりは、今の自分自身を見つめ直して、自分の個性を理解して大事にすることかもしれません。ならば長年、クルマの開発で培ってきた自分自身の中にあるモノの中に答えの鍵があるかもしれない。そう思うと、少し楽観的になってきました。
そんなこんなで、ますます写真を撮ることが楽しくなっている毎日です。6月の花の写真展、私たちの作品を、ぜひ多くの方々に見に来ていただけると嬉しいです。(2017年6月談)

吉川さんが第1回目の写真展(2015年7月)に出展した2点の作品。青を基調にした引きと寄りの構成。