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九州・有田町へ。
九州、佐賀県西松浦部有田町。佐賀県の西端に位置し、長崎県と隣接する人口約2万人の小さな町。しかし「有田」と言えば「有田焼き」として日本の焼きもの発祥の地とも言うべき、歴史ある町である。その歴史は400年前、江戸時代初期に遡り、2016年には「日本磁器誕生・有田焼創業400年」が行われた。
1616年、日本で初めてこの地で磁器が焼かれたとされ、以来、日本からヨーロッパやアジア諸国へ磁器が輸出され、「ジャポニズム」の象徴として世界で愛用されてきた長い歴史がある。もちろん、我々も有田の器は日々の生活の中で日常使いの器としても手にし、また古いものは骨董として鑑賞され、伝統工芸品と日常生活器の二つの魅力を持ち合わせ、身近でありながら、その誕生の地へまではなかなか足を運ぶことのできない遠い存在でもあった。

ローカルだからこそ守られているもの。
有田へのアクセスは、佐賀国際空港からJR佐世保線あるいはタクシーかレンタカーで約1時間30分。または、北部に隣接する福岡県の福岡空港からのアクセスは、博多駅からJR佐世保線の特急で約1時間30分。あるいは西の長崎空港からだとJR大村線・佐世保線と乗り継げば約1時間。東京首都圏からのアクセスは、はっきり言って遠い。九州にも新幹線が通るようになっても、その路線からも外れているので、ローカルである。しかし、ローカルであるからこそ、守られてきた伝統や習慣も残され、様々な資源や資産も多く残されている。
実は、有田町は焼きものだけではなく、食も水も豊かな土地柄だ。町内には大きなダムが2つあり、中でも竜門ダムの上流にある「竜門峡」は中国を彷彿とさせる山水画のような山々の風景を見ることができ、その山々から流れ出る渓谷の水は「名水百選」、「水源の森百選」にも選ばれ、この澄んだ水で育った鯉は川魚料理として人気が高い。「ここの鯉を食べれば、鯉の常識が覆される」とまで言われるほど美味しいらしい。
また、有田町の西のエリアには「棚田百選」に選ばれた「岳の棚田」があり、有田の町は昔から美味しい水とお米の宝庫でもあった。そうすればおのずと美味しいお酒も作られ、町内各地に酒蔵もある。人と食を結ぶ器は、このような恵まれた環境で必然的に生まれ、それが400年の長き歴史を築いてきた、そんな町が有田である。

一夜限りの宴席、DINING HACK。
今回、有田町で150年の歴史を持つ「幸楽窯」の窯元を舞台に、地元食材を用いてここでしか食べることのできない料理をいただき、さらに季節の花や音楽も併せて五感で楽しむダイニング。そんな贅沢なひと時を用意していただいた。仕掛けたのは伊藤レイさん。東京から福岡に移住し、幸楽窯、シェフとの出会いから、インスタレーションを企画し、さっそく実行したのがこの「DINING HACK」と名付けられた一夜限りの宴席。
伊藤さんによると「DINING HACKとは、日本の陶磁器の産地を巡る大人の一夜限りのインスタレーションパーティーツアー。地元の食と伝統工芸にハイブリッドな息吹と上質なアソビを注ぎこみ、瞬間をドラマティックにハックしていくプロジェクトです。」その第1弾として企画したのが、ここ有田だった。
そしてこのプロジェクトの舞台として選ばれたのが、窯元「幸楽窯(徳永陶磁器株式会社)」であり、食を提供するシェフが水野健児氏。福岡県糸島市を拠点に出張料理人として活躍する「PINOX」のオーナーシェフ。地元食材をもう一度徹底的に探し歩き、厳選した素材だけで見事なフレンチ12品へ仕上げた。
「幸楽窯」は慶応元年(1865年)、地元有田町で創業した窯元。江戸時代末期・明治時代初期から古伊万里様式の伝統を守りながらも、時代に求められる焼きものづくりに積極的に取り組み、初代の意志を守り続けている。「家庭に幸せを、食卓に楽しさを」を社是として幸楽窯と名付けられた。最近では海外からのアーティストも集まることができるよう、滞在型の作品製作の場「アーティスト・イン・レジデンス」を設け、世界各国からのアーティストたちが有田へ長期滞在し、ローカルでグローバル=グローカルな人と人とが新たなクリエーションに挑戦する場を設けるなど、伝統を守るだけではなく、グローバルな時代の流れにも寄り添うようなチャレンジを行っている。

窯×フレンチ×地元食材×生花×音楽を彩るクリエイターたち。
DINING HACK@有田のメンバー。
・Chef:水野健児氏
・Flower:井上博登氏
・Sound:DJ AMIGA
・Camera:亀川涼氏
・Producer:伊藤レイ氏
・Special supported by 幸楽窯 5代目当主、徳永隆信氏

まずは窯場内にあるホールにてアペリティフで乾杯。

5代目当主、徳永隆信氏のガイドにより窯業場内のガイドツアー。有田焼のできる工程を流れるように巡る。

庭では焚き火を囲んでフラワーアーティストによるインスタレーション。

 

そして、いよいよメインステージとなる20名限定のダイニング。

DINING HACKを企画したプロデューサーの伊藤レイさん。着物姿がとてもお似合い。

シェフの水野健児さん。地元食材を見つめ直し、こだわりのメニューへと見事に昇華。

厳選された地元食材による12品のフルコース。器はもちろんすべて幸楽窯。中には観賞用の貴重なものも何点か。

今は限りなく便利な時代である。どこにいてもお取り寄せでほとんどのモノが翌日には自宅に届く。しかし、どうしても届けられないものもたくさんある。その現場で働く人との会話であったり、寒さや暑さの肌感覚や臭い。特に日本の食は味覚だけではなく、視覚や嗅覚など五感を刺激してくれるのが一番の魅力でもある。その場へ行ってみないと分からない、感じることのできない、知りうることのできない、さまざまな体験まで含めて楽しむことこそ、旅の魅力であり、食の魅力でもある。
第1回目のDINING HACKは日本磁器の故郷、有田への旅となった。次回はどこへHACKするのか新たな楽しみの種がまたひとつ見つかった。

続く(次回は「有田焼の歴史を辿る」はこちら)
レポート:TokyoDays 宮崎秀雄、写真:亀川涼氏、宮崎秀雄